川越城本丸御殿|東日本で唯一現存!歴史・建築・内部を完全解説

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川越城本丸御殿|東日本で唯一現存!歴史・建築・内部を完全解説

川越城本丸御殿を細部まで!より深く知るための完全ガイド

川越城本丸御殿外観

川越城本丸御殿は、東日本で唯一現存する本丸御殿建築として、全国でも特別な存在感を放っています。将軍の宿泊所としての格式を備え、藩主の政務・居住の場として機能したこの御殿は、江戸時代の武家文化と建築技術を今に伝える貴重な遺構です。

本記事では、川越城本丸御殿の歴史的背景から、玄関や大広間に込められた建築美、家老たちが政務を行った詰所の構造に至るまで、川越城本丸御殿の魅力を、深く掘り下げてご紹介します。

なお、簡潔に見どころだけを知りたい場合は以下の記事がおすすめです。

川越城本丸御殿の見どころについて詳しく見る

戦国から幕末へ、川越城と本丸御殿の歴史

本城住居絵図

川越城は、1457年に扇谷上杉家の家臣、太田道真・道灌父子によって築城されました。当時、関東の要衝として設計され、戦国時代には北条氏、豊臣氏による支配を経て、江戸時代には徳川幕府の重臣が城主を務める「江戸の北の守り」として重要視されました。

特に「知恵伊豆」の異名を持つ松平信綱が城主を務めた時代には、城下町の整備が進み、川越は江戸文化の影響を色濃く受ける町として発展します。

本丸御殿は、江戸時代初期に将軍の宿泊所として建てられたものの、三代将軍家光以降将軍の来訪が途絶えたことで解体。長く空き地のままでしたが、1846年、二の丸御殿が火災で焼失したため、本丸跡に新たに建設されたのが現存する本丸御殿です。嘉永元年(1848年)に完成したこの御殿は、藩主の居住と政務の場として使用され、幕末の激動期を経て今日までその姿を留めています。

川越城本丸御殿 年表
太田道真・道灌父子が川越城を築城
豊臣秀吉の小田原征伐により北条氏が滅亡、徳川家の支配下に入る
松平信綱が川越藩主となり、城下町の整備を推進
江戸時代初期将軍宿泊用の本丸御殿が建設される
1640年代以降将軍の宿泊が途絶え、宿泊用御殿は解体
二の丸御殿が火災で焼失
現存する本丸御殿が再建される
明治維新、川越城は県庁・公会所・学校などに転用
埼玉県指定有形文化財に指定
家老詰所が追加で埼玉県指定有形文化財に指定
2008–2011年保存修理工事が実施され、屋根・土壁などが修復

唐破風玄関と櫛形塀に見る、格式高き武家建築の美

唐破風玄関

現存する川越城本丸御殿の玄関は、大唐破風を備えた壮麗な造りが特徴です。銅板葺の大屋根に、間口三間の広い開口部、堂々たる八寸角の柱が並び、17万石の大名にふさわしい威厳を湛えています。

開口部

玄関左右には「櫛形塀」が連なり、元々は片側のみが残っていましたが、1968年(昭和43年)に左右両方が復元。櫛形塀の流れるような曲線美は、御殿の格式を象徴するとともに、建物全体の意匠に調和を与えています。

櫛形塀

この玄関は、藩主や来訪者に対する威厳の演出だけでなく、武家社会における地位の象徴でもありました。かつてこの正面玄関を使用できたのは、将軍のみ。藩主であっても、脇玄関の中ノ口から出入りしていたといわれています。

玄関

城の中枢を支えた、各部屋の役割と特徴

川越城本丸御殿は、藩主の政務と生活を支えるため、各部屋が明確な役割を持って配置されています。建築当時の機能と意匠を残す空間は、江戸時代の武家社会の秩序と緊張感を今に伝えています。ここでは、それぞれの部屋が果たした役割と特徴をご紹介します。

本丸御殿館内案内図

使者の間|使者のための控え室

使者の間

藩主との謁見を待つ使者が控える空間。室内は簡素ながらも、襖絵や欄間などに精緻な装飾が施され、格式ある迎賓の場としての雰囲気を醸し出しています。

使者の間の欄間 使者の間の襖絵

使番詰所|伝令・監察役人の待機所

藩政を支えた使番たちの詰所は、職務の厳粛さを反映して簡素な造りになっています。質素な空間ながら、効率的な動線設計がなされており、迅速な伝達と監察業務が行えるよう工夫されています。

使番詰所

老体・番抜詰所|高齢役人のための控え室

現役を引退した高齢の役人たちが詰めた部屋で、装飾を排した落ち着いた空間が特徴です。表舞台からは退きつつも、彼らの経験が藩政の安定を支え続けたことが偲ばれます。

老体・番抜詰所

物頭詰所|足軽頭の控え室

足軽を指揮する物頭たちの控え室。シンプルな設えでありながら、戦時には迅速な対応が求められるため、実用性が重視された構造となっています。

物頭詰所

明治棟|近代化の歴史を伝える増築部分

第 1 展示室

明治時代に増築された明治棟では、第 1 展示室として、保存修理工事に関する展示が行われています。歴史的遺構と近代化の接点として、御殿の新たな役割を今に伝えています。

保存修理工事に関する展示1 保存修理工事に関する展示2 交換した南側鬼瓦

坊主当番詰所|僧侶の宿直室

第 1 展示室

僧侶が宿直し、儀式や藩主の精神的支えを担った部屋。現在は第 2 展示室として、年表や城絵図の展示が行われ、川越城の歴史を視覚的に学ぶことができます。

坊主当番詰所 川越城本丸御殿の年表展示

家老詰所|藩政の中枢を担った空間

家老詰所案内図

藩政の中枢となった家老詰所では、重要な政務が日々取り行われていました。黒船来航時には防衛対策が協議されるなど、藩政運営の緊張感が漂う空間であり、現在は人形展示によりその様子が再現されています。

家老詰所 家老詰所 年寄詰所 年寄詰所 記録方詰所 記録方詰所

中ノ口|将軍以外のための出入り口

中ノ口は、正面玄関に比べて間口2間半の一回り小さな規模の玄関です。正面玄関は将軍専用とされていたため、藩主をはじめとする関係者はこの中ノ口を使って出入りしていました。格式を守るための動線設計の一端を示しています。

中ノ口(御殿内) 中ノ口(御殿外)

徒詰所|護衛武士の詰所

御殿の警護を担った徒士たちの控え室。護衛の前線拠点として機能しており、藩主の安全確保のための重要な役割を果たしていました。

徒詰所

広間|格式高き迎賓空間

広間(全体)

36畳もの広さを持つ広間は、来客の待機場として使われました。格天井の意匠、豪華な襖絵、そして空間全体に漂う静謐な空気が、御殿の格式を際立たせています。

広間の襖

この広間には、**紫裾濃威胴丸具足(むらさきすそごおどしどうまるぐそく)**という甲冑が展示されています。

紫裾濃威胴丸具足

紫色の威し紐で飾られたこの胴丸具足は、江戸時代に作られたもので、藩主の威信を示す儀礼用の甲冑と考えられています。裾に向かって色を濃くする「裾濃(すそご)」の技法と、細部に施された精緻な装飾が見どころであり、広間の格式高い空間と美しく調和しています。

紫裾濃威胴丸具足(兜) 紫裾濃威胴丸具足(胸部) 紫裾濃威胴丸具足(胴部)

豪華な襖絵とともに、この甲冑もまた、当時の武家文化の美意識を今に伝えています。ここから藩主との対面へと至る道筋が、厳かな儀礼の一環として機能していました。

御殿に潤いを与える中庭|石庭と飛び石が彩る静謐の空間

川越城本丸御殿には、御殿建築に寄り添うように整備された美しい中庭が広がっています。

石庭(南側) 石庭(中庭)

この庭は、江戸時代に存在した大書院跡地の一部とされ、現在は飛び石が配された庭園と、白砂を敷き詰めた石庭(枯山水)が整備されています。

庭園

飛び石が連なる開放的な庭園空間は、自然の景観を取り込みながら、歩くたびに景色が移ろう趣を持たせています。御殿の木造建築と調和し、控えめでありながらも品格を感じさせる空間に仕上がっています。

また、石庭では白砂に施された砂紋と植栽が織りなす静謐な世界が広がり、まるで絵画のような美しさを御殿内から眺めることができます。

白砂に施された砂紋

かつて藩主や家臣たちが行き交ったこの地に、今は静かな庭の景色が広がり、御殿内部の厳粛な空気を和らげています。

歴史を感じさせる建物と自然が融合したこの中庭は、川越城本丸御殿の魅力をより一層引き立てています。

中庭

明治から現代へ、川越城本丸御殿の保存と修理の歩み

廊下

明治維新後、全国の城郭建築は廃城令により次々と姿を消していきましたが、川越城本丸御殿は奇跡的に解体を免れました。これは、時代の要請に応じて県庁、公会所、煙草専売工場、武道場、学校など、公共施設として次々と転用されたことが大きな要因です。用途を変えながら活用され続けたことで、建物は存続への道を歩みました。

屋内運動場として使われていた頃の名残。広間の天井には、くっきりとバレーボールの跡がついている 天井に付いたバレーボールの跡

1967 年には玄関と大広間が埼玉県指定有形文化財に、1991 年には家老詰所も追加指定され、文化財としての地位が確立されました。保存すべき遺構として、歴史的価値が公式に認められた形です。

さらに、2008 年から 2011 年にかけては、約 2 年半にわたる大規模な保存修理工事が実施されました。屋根の葺き替え、木材の補修、耐震補強、土壁の復元など、歴史的な建築技法を尊重しつつ、現代の安全基準を満たすための改修が進められました。この工事によって、御殿の真正性を維持しながら、次世代に継承する基盤が整えられました。

川越城本丸御殿は、こうして歴史の荒波を越え、現代にその姿を留めています。

家老詰所の縁側に差し込む西日

日本100名城スタンプの設置場所と押印方法

パンフレットと入場チケット

川越城本丸御殿は、日本100名城にも選定されています。来館者向けに、スタンプラリー用のスタンプが設置されています。

通常、スタンプは川越城本丸御殿の館内に設置されており、開館時間中(9:00〜17:00)であれば、誰でも押印することができます。

ただし、入館受付は 16:30 までとなっているため、スタンプを押したい場合は時間に余裕を持って訪れるのがおすすめです。

なお、本丸御殿が休館日(月曜・第4金曜日など)にあたる場合は、本丸御殿の隣りにある初雁公園休憩所にスタンプが移設され、同じく 9:00〜17:00 の間に押印が可能です。

また、年末年始(12月29日〜1月3日)に限り、本丸御殿と初雁公園休憩所がいずれも休館となるため、スタンプは 川越市役所当直室(本庁舎地下1階)に設置されます。

参考: 日本100名城スタンプ(19 川越城)設置場所|川越市

東日本唯一の本丸御殿へ、その歴史を体感しよう

本丸御殿正面

川越城本丸御殿には、格式高い武家建築の美と、藩政を支えた実務空間の緊張感が、今もなお息づいています。玄関の大唐破風、大広間の静謐な空気、家老詰所に残された往時の面影。それぞれが今もなお、往時の面影を静かに伝えています。

家老詰所に入る光

東日本で唯一現存する本丸御殿という貴重な存在は、江戸時代の武家文化と建築技術を体感できる格好の機会です。歴史の重みと静かな気配に包まれながら、川越城本丸御殿の内部を歩くことで、過去と現在をつなぐかけがえのない時間を過ごしてみてください。

本丸御殿外観

川越城本丸御殿 基本情報

営業時間
9:00 〜 17:00 (最終入館 16:30 )
定休日
月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始(12/29 〜 1/3)、毎月第四金曜日(館内整理日、祝日除く)
電話番号
049-222-5399 (川越市立博物館)
公式サイト
https://www.city.kawagoe.saitama.jp/museum/honmaru/1011573.html
駐車場
無料駐車場有り
所在地
埼玉県川越市郭町 2-13-1
川越城本丸御殿 入館料
区分料金
一般100円
大学生・高校生50円

川越城本丸御殿パンフレット [PDF]


川越城本丸御殿に関する以下の記事もぜひご覧ください。

川越城本丸御殿へのアクセス方法について詳しく見る

川越城本丸御殿の見どころについて詳しく見る

川越城本丸御殿内部について詳しく見る

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