高知城本丸御殿|全国で2例しかない現存の本丸御殿「懐徳館」を徹底紹介

最終更新日:

高知城本丸御殿|全国で2例しかない現存の本丸御殿「懐徳館」を徹底紹介

高知城で、現存する“本物”の本丸御殿に触れる

高知城敷地内。天守閣と周囲の石垣が優美な姿を見せる。

高知城は、江戸時代初期に築かれた土佐藩の拠点です。なかでも「本丸御殿」は、全国に 2か所のみの「現存する本丸御殿」のひとつとして、歴史建築としての価値が極めて高い建物です。

さらに高知城は、天守と本丸御殿が揃って現存する日本で唯一の城でもあります。その希少な空間に足を踏み入れれば、江戸時代の政治的儀礼や武家社会の一端に触れることができます。

本記事では、高知城の本丸御殿についてご紹介します。

高知城 本丸御殿(懐徳館)

懐徳館の入口。木の風合いが現存の年月を感じさせる

高知城本丸御殿は、高知県高知市にある江戸時代(17〜19世紀)の城郭建築です。かつて藩主の儀式、接客の場として使用され、現存する貴重な建物として公開されています。

営業時間
9:00 ~ 17:00 (入館は16:30まで)
定休日
12 月 26 日~ 1 月 1 日
料金
500円(18歳未満無料、学生証等の提示あり)
電話番号
088-824-5701
公式サイト
https://kochipark.jp/kochijyo/
駐車場
敷地内に駐車場あり(7:30 〜 18:30 / 最初の1時間370円、以降30分毎に110円)
アクセス
JR 高知駅から徒歩約 25 分、とさでん交通「高知城前」電停から徒歩 5 分
所在地
〒780-0850 高知県高知市丸ノ内 1-2-1

全国に2ヶ所のみ:現存する貴重な本丸御殿

日本に現存する本丸御殿は、全国でわずか2か所だけです。

ひとつは埼玉県の川越城本丸御殿、そしてもうひとつがここ高知城に残る本丸御殿です。

多くの城は、明治時代の廃城令や戦災などによって御殿を失いました。その中で、高知城の本丸御殿が今日まで保存されているのは、極めて貴重な例といえます。

さらに高知城は、江戸時代に建てられた天守と本丸御殿がどちらも現存する、唯一の城としても知られています。

天守閣と本丸御殿の外観。両方とも現存する貴重な文化財

御殿から天守まで、当時のままの空間構成が体験できることは、日本全国を見渡してもここだけです。

高知城と本丸御殿の歩み:築城と保存の歴史

懐徳館入口に展示されている、当時の天守閣の写真と「懐徳館」の書

高知城の築城が始まったのは、1601 年(慶長6年)。

土佐藩の初代藩主・山内一豊(やまうち かつとよ)が、関ヶ原の戦いでの功績により土佐一国を与えられ、その拠点として築かれました。

高知城は 10 年の歳月をかけて 1611 年(慶長16年)に完成します。その中で本丸御殿は 1603 年に建立されました。

本丸御殿は主に、藩主が儀式・接客などを行う政治の中枢の役割を担っていました。築城当初、二の丸御殿ができるまでは藩主の住まいであったとも伝えられています。

以後、1727 年の火災で天守閣と共に消失したものの、1747 年までに再建され、現在に至るまで江戸時代の構造を保っています。

本丸御殿は、一重、入母屋造、本瓦葺の木造建築で、御殿建築としての典型的な構造を今に伝えています。

本丸御殿の全体的な外観。一重、入母屋造、本瓦葺の木造建築。
一重(ひとえ)

階数が 1 階建てという意味です。「重」は建物の階層を表す単位で、一重は平屋建て、二重なら 2 階建てを指します。高知城本丸御殿は平屋建ての建物ということです。

入母屋造(いりもやづくり)

屋根の形式の一つで、日本建築の代表的な屋根構造です。切妻屋根(三角屋根)と寄棟屋根(四方に傾斜する屋根)を組み合わせた形。上部は切妻、下部は寄棟になっており、複雑で美しい屋根線を描きます。格式が高いとされ、寺院本堂、神社本殿、城郭建築、武家住宅など重要な建物に用いられました。雨仕舞いが良く、構造的にも安定している優れた屋根形式です

本瓦葺(ほんがわらぶき)

瓦の葺き方の種類で、最も格式の高い瓦葺き方法です。「本瓦」とは、丸い瓦(丸瓦)と平らな瓦(平瓦)を組み合わせて葺く方式で、重量感と耐久性が高く、格式ある建築に使われます。最も手間とコストがかかるため、城郭や寺院など重要建築物に使用されました。一般的な民家では板葺きや茅葺きが多く、瓦葺きは身分の高さを示すものでした

懐徳館」という名称は、城が高知県に移管された明治時代(1870年代以降)に定められたもので、現在では本丸御殿の公式な呼称として用いられています。

書院造の美学を体現した武家建築

懐徳館は、江戸時代の武家社会における建築美を象徴する「書院造」の様式で建てられた御殿建築です。

書院造(しょいんづくり)

書院造とは、室町時代中期( 15 世紀)に成立し、江戸時代初期( 17 世紀初頭)にかけて完成された、日本の住宅建築様式の一つです。平安時代の公家住宅である寝殿造を基礎として、武家の生活様式に適応するように発達した武家住宅の形式で、格式と機能美を兼ね備えた空間構成が特徴です。

懐徳館の内部は、畳敷きの部屋が連続し、障子や襖でやわらかく仕切られた空間が静謐な印象を生み出します。波をモチーフにした美しい欄間や、上段の間など、儀式や来客との正式な対面にふさわしい品格と整然さを備えています。

懐徳館の内部。畳敷きの部屋が連なっている 襖と欄干で仕切られており、陽の光を取り入れる設計になっている。

建物の端に設けられた廊下や縁側は、室内と庭を緩やかにつなぎ、季節の移ろいを暮らしの中に取り入れる設計となっています。庭の眺めを意図的に切り取るように設けられた開口部は、秩序ある空間の中に自然の風趣を取り入れ、静かな美を際立たせています。

廊下。開放感のある造りになっており、御殿と庭との一体感、調和を感じられる構造になっている。 縁側から見た外の風景。塀には狭間があり、外の様子を伺う事もできる他、鉄砲などで攻撃も可能な穴が空いている。 小さな庭園も設えてあり、憩いの空間も整備されている

華美に走らず、素材と構成の美で魅せる懐徳館の空間は、書院造が追求した簡素で洗練された美の理念を、光と影の絶妙なバランスと整然とした空間構成によって体現しています。

上段の間

上段の間 位置マップ

上段の間は、本丸御殿の中心に位置する、もっとも格式の高い部屋です。

南廊下からみた上段の間。床が一段上がっていることが見てとれる

藩主が儀式や来客応接を行う際に使用する空間であり、御殿内でも特に重要な役割を担っていました。

この部屋の特徴は、畳敷きの床が一段高く設けられている点にあります。押板床や違棚といった意匠が整えられ、藩主の権威を視覚的に示す構造となっています。

上段の間。違い棚や帳台構えなど、書院造の特徴が見られる

さらにこの部屋には、敵の侵入に備えて護衛の武士が隠れるための「武者隠し」が設けられています。

帳台構え。装飾は全体的に質素ながらも、家紋などには金箔が使われている

帳台構えと呼ばれ、この扉の奥には納戸があります。押入れのように見える構造ですが、いざという時には身を潜めた武士が即座に対応できるよう工夫されており、御殿における防衛面での配慮もうかがえます。

武者隠しの舞台裏

上段の間に設けられた「武者隠し」の扉の奥には、納戸と呼ばれる小部屋があり、ここも見学することができます。

納戸 位置マップ

一見すると収納のための空間ですが、実際には藩主を警護する武士が身を潜める場所としても機能していました。この仕組みが「武者隠し」と呼ばれています。

納戸の様子。ここで武士が待機し、有事のときは帳台構えから飛び出し藩主を守る。

本丸御殿の格式ある佇まいの裏側に、こうした緊張感ある設計が組み込まれていることは、当時の徹底した安全管理が垣間見えます。

懐徳館の見学順路と天守閣への接続

懐徳館と天守閣の外観。双方が隣同士であることがわかる

懐徳館は高知城天守閣と接続しており、天守閣見学の順路として、懐徳館(本丸御殿)、天守閣という流れになっています。そのため、料金は天守閣と懐徳館でセット(¥500)です。

懐徳館と天守閣の見学順路マップ
  1. 懐徳館の入口で料金を支払い、入場します。
  2. 順路に沿って、四ノ間、三ノ間を通り、南廊下へ出ます。
  3. 南廊下からは上段の間が見られるほか、中庭も設けられており、日本の庭園も見られます。
  4. 天守閣へ入る前に少し順路を外れて、納戸(武者隠し)を見学することができます。
  5. 天守閣へと入ります。
  6. 天守閣の見学を終えると再び懐徳館に戻ってきますので、入場したところから外に出れば見学は終了です。

歴史的空間としての価値を体感できる場

懐徳館のエントランスホール。昔の高知城の写真と、「懐徳館」の書が印象的

懐徳館は、現存する数少ない本丸御殿建築として、建築的・歴史的に極めて重要な遺構です。

藩主が儀式を執り行ったり、来客を迎える場であった上段の間や武者隠し、自然と一体となった縁側など、空間そのものが江戸時代の格式を伝える一次資料として残されています。

日本の城といえば、その象徴として天守閣にフォーカスが集まりがちですが、高知城には、天守閣の手前でこれだけ歴史的価値の高い空間も楽しむことができます。

他の城では再建された建物が多い中で、ここでは当時の姿を今に伝える”実物”に触れることができます。

高知城へ行った際にはぜひ、日本で 2か所のみ現存する本丸御殿「懐徳館」にも注目してみてください。

天守閣と本丸御殿の外観。両方とも、青空に瓦が映える
あわせて読みたい: