- 行列に並ばない!階段は上らない!失敗しない大阪城天守閣の歩き方
- チケット購入に並んだり、8階建ての天守閣を階段で上ることを避けて、快適に大阪城天守閣を巡りましょう。
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城は日本を代表する観光資源です。
全国各地に点在する城郭は、その土地の歴史を物語る存在として、国内外問わず多くの観光客を惹きつけています。
しかし、すべての城が同じように楽しめるわけではありません。
歴史に詳しくない観光客でも「楽しかった」と思える城と、「なんとなく観た」で終わってしまう城がある。その違いは何でしょうか。
私は各地の城を巡る中で、その答えが「現代的アプローチ」の有無にあると感じるようになりました。
本記事では、首里城の復元を中心に、熊本城、大阪城、小田原城の事例から、城の魅力を観光客に届ける方法を考察します。
城は、現存天守・復元天守を問わず、歴史好きにとっては魅力的な存在です。
かくいう私も、歴史や城を愛する者の一人。石垣の積み方、縄張りの工夫、建築様式の違い。知識があればあるほど、城を訪れることで得られる体験は豊かになると確信しています。
一方で、歴史に詳しくない観光客にとっては、その価値が伝わりにくいことも多いのが実情。
急勾配の階段、薄暗い内部、読み解くのが難しい展示資料。
なぜ急勾配なのか。なぜこの階には窓が無いのか。
「有名だからとりあえず来てみた」で終わってしまうケースは少なくない。
ただし、これは城そのものの問題ではなく、城の価値を「届ける方法」に課題があると感じています。
各地の城を巡る中で私は「現存天守か復元天守かに関わらず、現代的アプローチの有無が観光客の満足度を左右するのではないか」と考えるようになりました。
では、現代的アプローチとは何なのでしょうか?
それは、「価値を伝える」のではなく、「興味関心を持ってもらうこと」です。
例えば案内板について。
情報をその場に残すという意味でも、案内板に学術的な解説を列挙しているケースがほとんどですが、城好き・歴史好きの観光客でもなければ立ち止まって熟読するケースは少ないと感じます。
そのスポットの情報をインプットせずに観るため、「ただ見て終わる」になるのがほとんど。
案内板自体は前述の通り「情報をその場に残す」という役割もありますから、現状ままでも良いとしても、別の「伝える」アプローチが必要です。
現代においてその一つが「映像」であると考えます。
映像という視覚的なアプローチは誰にとってもわかりやすく、コンテンツ次第で歴史や城に興味関心が薄い観光客にも刺さります。
そして、それによって興味を喚起できれば、城や歴史、地域について関心が出て知ろうとしてくれます。
また、映像以外にも、甲冑の試着や押印といった体験型コンテンツ、車椅子でも天守閣に登れるバリアフリー設備なども、興味喚起や満足度向上に寄与する現代的アプローチと言えます。
このように、「直接的に伝える」のではなく「興味関心を持ってもらう」ことで、結果として城観光の満足度を高めることになるのではと、私は各地の城を巡り周囲の様子を見ていて感じています。
2019年10月31日未明、沖縄県那覇市にある首里城で火災が発生し、正殿をはじめとする9施設が焼失しました。

琉球王国の王城として15世紀から19世紀にかけて造営され、2000年には世界遺産に登録された首里城。その火災は、沖縄県のみならず日本全体にとって大きな損失となりました。
しかし、首里城の復元には「現代的アプローチ」が明確に位置づけられています。
沖縄県が2021年3月に策定した「首里城復興基本計画」には、「観て学び楽しめる復興」という方針が明記されています。
これは、復元過程そのものを観光コンテンツとして公開し、観光客を復興プロセスに巻き込むというアプローチです。
首里城では、正殿の再建に際して「素屋根見学エリア」が設けられました(2025年6月まで公開)。宮大工たちが伝統技法で正殿を建築する様子を間近で見学できる、貴重な体験が提供されていました。

伝統建築技法を間近で見られる機会は早々ありません。復元工事中であっても首里城公園に行く理由を創り出した、素晴らしい取り組みです。
首里城復興展示室では、工事の進捗にあわせた映像や解説パネルが展示され、世誇殿では大型モニターで琉球王国の歴史を紹介し、タッチパネルで復元される首里城の3Dイメージを見ることができます。
首里城の復興では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の活用も積極的に進められています。
沖縄県はSCSK株式会社と「首里城復興におけるDX活用に関する連携協定」を締結し、「首里城復興DX共創ラボ」を運営。3D復元モデルやメタバース空間での首里城復元など、デジタル技術を活用した体験型コンテンツの開発が進んでいます。
2025年夏には正殿の外観が完成し、外壁には天然由来の赤色顔料「久志間切弁柄(くしまぎりべんがら)」が使用されました。平成の復元では難しかった「琉球の赤」が鮮やかに再現されています。
2026年秋の正殿完成に向けて、現在も内部の整備が進められています。

熊本城の復元も、現代的アプローチの好例です。
2016年4月14日と16日に発生した熊本地震により、熊本城は甚大な被害を受けました。重要文化財13棟、複数の復元建造物が倒壊・破損し、石垣全体の約1割が崩落しました。
熊本城の完全復旧は2052年を目指して今も続いていますが、天守閣の復旧は2020年に完了し、2021年より一般公開されています。
天守に至るまでの道は完全に再整備され、バリアフリー化されました。

天守内の階段は上りと下りが一方通行になり、手すりが設置されました。日本の城の階段は段差が高く狭いため、これは現存のまま残していたら不可能なことです。

各階層のコンテンツは完全に情報が再整理され、映像・模型・遺物・解説文献など、資料展示というコンテンツの中に、情報整理・デザインというエッセンスがより研ぎ澄まされた状態で再構築されました。


こういった「現代的なアプローチ」は、訪れた人々へ、その歴史への理解を促進させます。
興味がなかったとしても、興味喚起され、なんとなくの「面白そう」から入って見た映像資料コンテンツがわかりやすく、面白くアプローチするため、訪問者のアハ体験を生み出します。
そして熊本城の天守を出たときには、多くの人たちが「楽しかった」と感じるようになります。
現代的アプローチは、災害からの復元でなくても導入できます。大阪城と小田原城の事例を見てみましょう。

大阪城天守閣は、1931年に鉄筋コンクリートで再建され、1997年に大規模改修が行われました。
特筆すべきは、国内でも数少ない「完全バリアフリー」の天守閣であることです。

博物館としても本格的に運営されており、学芸員が常駐し、重要文化財を含む約8,000点の収蔵品があります。豊臣秀吉と大阪城に関する映像コンテンツ(各約5分、4カ国語字幕対応)も順次上映されています。以下のような、3D による立体映像を用いたコンテンツもあり、来場者を惹き込みます。

兜・鎧の試着体験(500円)では、豊臣秀吉や真田幸村の復元甲冑を着用できます。


小田原城天守閣は、1960年に復興され、50年以上が経過した2016年に耐震改修が行われました。
この改修を機に、展示が全面リニューアルされています。
グラフィック説明の大幅増加、映像コンテンツの充実に加え、虎朱印押印体験や甲冑姿体験、3D顔はめといった体験型コンテンツも整備されました。
同時期にオープンした「常盤木門SAMURAI館」では、甲冑・刀剣など武具に特化した展示を行い、武士の精神性や武具の美術性を紹介しています。

小田原城の事例は、災害復旧ではなく定期的な改修であっても、現代的アプローチを導入できることを示しています。
災害で歴史的価値のある文化財が破壊・消失してしまうことは、もちろん悲しいことです。
しかし、復元は観光整備の好機でもあります。
熊本城、首里城、そして小田原城の事例が示すように、復元・改修は単なる「元に戻す」作業ではありません。
現代のニーズに合わせたバリアフリー化、映像技術を活用した展示、体験型コンテンツの導入。これらは、歴史的価値の保存と観光資源としての価値向上を両立させるもの。復元は、「より良くする」機会です。
これらの現代的アプローチを取り入れることで、「歴史的に価値のある場所」から「優秀な観光資源」へと進化させることができます。
首里城の復元は、2026年秋の正殿完成に向けて着実に進んでいます。
「観て学び楽しめる復興」という方針のもと、「見せる復興」やDX活用など、現代的アプローチが積極的に取り入れられています。
熊本城が示したように、現代的アプローチは歴史への興味喚起を生みます。
「なんとなく観た」から「楽しかったからもっと知りたい」へ。
城を訪れた観光客が「楽しかった」と思えることが、その地域の歴史や文化に興味を持つきっかけになります。
個人的には、日本を旅し、歴史や城を愛する一人として、学術的な解説を案内板で知れることはとても嬉しいことです。非常に読み応えがありますし、「知って、実際に観る」ことの満足度はとても高い。
ただ一方で、現代的なアプローチが城観光の満足度をもう一弾引き上げてくれる。その可能性も大きく感じています。
映像を観ながら目を輝かせる子どもたち、それを見てにこやかな父母や祖父母たち。
足が悪くても歴史に触れられる、訪問者に優しい設備。
言語が違っても、わざわざ日本へ来て、愛でる歴史や文化に十分に触れられる機会。
首里城が、熊本城のように「楽しい城」になることを期待しています。
